貿易業で財を成した松井家による国際色を感じる建造物/盤泉荘

「盤泉荘(旧松井家住宅主屋)」は、2021年に改修整備が完了した市指定文化財です。明治から大正時代にかけて、大洲市出身の松井傳三郎、國五郎兄弟はフィリピン・マニラで貿易会社や移民向けの百貨店を経営し、大きな財を成しました。傳三郎は故郷の大洲市に別荘を建築しようと計画しましたが、志半ばでスペイン風邪に罹り他界します。兄の遺志を受け継いだ國五郎が、1926年(大正15年)に完成させたのが、「盤泉荘」です。

貿易業を営んだ施主の国際性が随所に散りばめられた建造物

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海外生活が長かった松井兄弟が計画した建物は、同時代の建造物と比較して独特の仕掛けが随所に取り入れられています。その1つが玄関の鬼瓦に刻まれた「K.M」のアルファベット。これは國五郎のイニシャルを刻んだもので、和瓦にアルファベットという斬新な発想は、彼らの既成概念にとらわれない柔軟な考え方を体現しているかのようです。

また、建物を支える石積みをよく見ると、アルファベットの「X」の形が見えてきます。国内で同様の石積みはあまり例がないため、施主である國五郎の意向に沿ったものではないかと推測されます。リズミカルな積み方は見た目にもモダン。石積みの上部に佇む建物とのコントラストも美しく、見る者を惹きつけます。

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庭で睨みを聞かせるライオンの大きな像

庭には棚田風に造成された前庭と中庭で構成されており、木々の間で、睨みをきかせるかのように置かれているのはライオンの像。これは当時の「新やなせ焼」によるものです。もともと大洲市には、江戸時代中期より柳瀬焼という焼き物がつくられていました。やがて柳瀬焼は廃れてしまうのですが、大正時代に老舗旅館の主人らが復活させたのが、新やなせ焼なのです。柳瀬焼も新やなせ焼も今は姿を消してしまいましたが、このライオンはその歴史を語りかけてくれているかのようです。

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レッドカーペットのように、贅沢にあしらった南洋材

お客さまを座敷や客間、茶室へと誘う廊下には、やや赤みを帯びた見慣れない材が用いられています。これはフィリピンなどを原産とするイピール材で、非常に重くて硬いのが特徴。「太平洋鉄木」とも呼ばれるイピール材の一枚板が20枚連続して並ぶ様子は、来客をもてなすためのレッドカーペットのような役割を担っていたと考えられています。これに対して家人が日常的に使う動線は、小幅な床材を使用しています。

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ロケーション抜群の茶室には、贅沢な意匠

懸造となった茶室は、大洲市街と中庭の両方のロケーションを一望できます。中庭には伊予の青石をふんだんに用いて、亀を模した石と砥部焼の鶴で縁起をかついでいることがうかがえます。茶室内部は網代建具や赤松皮付床柱、舟板の古材を使っており、非常に贅沢なつくりとなっています。続き間の水屋の床は、忍者屋敷のように開くことができ、ここから表を通らずに使用人らが行き来することが可能です。

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岩盤を掘ってつくった横井戸から生活用水を確保

盤泉荘の邸名の由来ともなっているのが、裏山の岩盤に掘られた横井戸。奥行きはなんと50mもあり、岩から滲み出た水が台所の貯水槽へと溜まる仕掛けとなっています。この横井戸は、食品の保存にも使われており、お酒や漬物などをここで保管したそうです。

バルコニーや一枚板の大きなガラス、高い天井

海外生活を送った國五郎らしく、この建物には西洋建築のテイストが取り入れられています。1階座敷の高い天井、2階のバルコニーなどはまさに西洋風。また一枚板の大きなガラス(大正ガラス)も随所に取り入れており、当時、これほどの大きなガラスを調達できたことからも、施主の財力を物語っています。

盤泉荘01

盤泉荘09

《施設情報》
■住所:〒795-0012 愛媛県大洲市柚木317
■電話番号:0893-23-9156
■営業時間:9:00〜17:00
■定休日:無休
■観覧料:大人550円、中学生以下220円

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