数寄を極めた水郷・大洲の歴史的建造物/臥龍山荘

大洲藩三代藩主加藤泰恒が「蓬莱山が龍の臥す姿に似ている」と名付けた臥龍淵は、肱川流域随一の景勝地。文禄年間に初めて築庭され、その後、歴代藩主の遊賞地として愛でられたという歴史を有しています。明治以降、自然荒廃した一帯を購入したのは、大洲出身の貿易商・河内寅次郎。京都の茶室研究家らの助言を受けながら、構想10年、工期4年を費やして、1907年(明治40年)に3棟の建物と借景庭園を完成させました。

臥龍山荘は、臥龍院、不老庵、知止庵の3棟と冨士山や肱川を借景とした日本庭園で構成されています。臥龍院と不老庵、文庫は国指定重要文化財。各棟それぞれに見どころが多く、季節の移ろいや自然の風物により、その時々の風情を味わうことができます。庭園の槇や榎、楓などの木々、苔類も風趣に富んでいます。

精緻な彫刻で描いた、四季の景色

臥龍山荘10河内寅次郎がもっとも情熱を注いだとされる臥龍院は、茅葺屋根に農村風寄棟の平屋建て。全国から吟味して集めた銘木を贅沢に使用しています。北向きで風通しの良い「清吹の間」は、天井も高く、夏に涼しさを感じさせる細工が随所に施されています。「室内には四季の風情も描かれているんですよ」と説明するのは笹山久子支配人。神棚の下の書院の欄間には桜の花に筏で春、右側には水玉で夏、左側の壱是の間との間の欄間には菊水で秋、仏間との間には雪輪窓で冬と四方に四季を表した彫刻が施されています。

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色濃く感じられる桂離宮様式と数寄屋部分が見事に調和

格調高い書院造りの壱是の間は、円窓や濡れ縁、障子戸、天井板などに桂離宮の様式が見て取れます。畳を上げれば能舞台となり、床下に置かれた備前焼の壺が、音響効果を高める役目を担っているそう。数寄屋部分との調和を図るために、さまざまな工夫も施されています。特に欄間に施された優雅な野菊と鳳凰の透かし彫りは見事の一言。匠たちの素晴らしい技を感じます。

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しっとりと穏やかな夕暮れを表現する意匠の数々

霞月の間は、夕暮れ時の薄暗い頃合いを表現するために、さまざまな工夫がなされています。床の間には富士山の掛け軸が掛かっており、その前に違い棚がありますが、「これは富士に霞がたなびく様を表現しています」と笹山さん。また丸窓の向こうにある仏壇に蝋燭を灯せば、あたかも月のように輝く効果が。さらに、庭に向かう建具には、夕暮れに花を咲かせる瓢箪が透かし彫りになっています。

もう1つ、目を惹いたのは利休鼠という薄鼠色の襖。その引き手は蝙蝠を象っています。蝙蝠の「蝠」は、福と同音であることから、古来より縁起の良い生き物とされています。幸運を招きたいという想いが、込められているのでしょう。ふと見上げれば、壁の一部に塗り残しがあります。「これも計算してのこと。荒れた農家の風情を表現しているんです」と笹山さん。作り手の細部にまで至るこだわりに、感動せずにはいられません。

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肱川にせり出すような懸り造りの不老庵

不老庵は、臥龍淵を眼下に見る崖の上にせり出すように建てられた懸り造りの数寄屋。建物は船に見立てられており、天井は竹網代一枚張りで船底のような景色をつくっています。入り口の縁続きには素朴な茶室があり、その外に出ると不思議な柱がこの建物を支えています。生きた槙の木を柱として使う「捨て柱」です。木の生命力を建物に取り込んでいるかのような、そんな不思議な佇まいが印象に残ります。

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中秋の名月の日にしか見えない稀な現象

不老庵では、なかなかお目にかかれない稀な現象があります。それは「月光反射」。中秋の名月の日、肱川の川面に映った月が反射し、竹網代の天井を照らすというもの。一方、晴れた日には日光が揺らぎながら天井を照らす「日光反射」が見られることもあるとか。どちらも一度は見たいものです。

石積みに表現された物語を探して

臥龍山荘の見どころは建物だけではありません。入口を入ってすぐのところにある石積みもとてもユニーク。蔵の下から乱れ積み、末広積みと続き、石臼を埋め込んだところは流れ積みとなっています。「石臼は川面に映る満月。石積みが川の流れなんです」と笹山さん。ふと見逃しそうな石積みにさえ、物語があることに感服します。

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冷蔵庫として重宝した、崖にある小さな洞窟

不老庵のそば、崖には小さな扉があります。この潜龍洞は、かつての氷室跡。冷蔵庫のない時代、年間を通して一定の温度が保たれていた洞窟は、食品などの貯蔵に重宝したそうです。今は外から見ることしかできませんが、先人たちの知恵を感じさせてくれます。

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これもまた珍しい、石灯籠のぼたん苔

臥龍山荘は庭の散策も気持ちの良いもの。ただし、苔を踏まないように注意して歩かなくてはなりません。散策で注目したいのは、手毬石、玄太石など特徴のある庭石。また大きな石灯篭の一部が白くなっていますが、笹山さんいわく、非常に珍しいぼたん苔とのこと。通常、ぼたん苔が生じるのには100年余りを要するのですが、臥龍山荘の環境がよかったのか、60年余りで成長したと言われています。

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《施設情報》
■代表者:笹山久子(支配人)
■住所:〒795-0012 愛媛県大洲市大洲411-2
■電話番号:0893-24-3759
■営業時間:9:00〜17:00
■定休日:無休
■観覧料:大人550円、中学生以下220円
■HP:http://www.garyusanso.jp

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